歩を進めようとしたディルムッドとカレンの耳に雷鳴が連続して響き渡る。

「どうも征服王が派手に暴れているようだな」

「そのようですね。それに向こうでも」

そう言うカレンの視線の先には巨大ゴーレム。

「どうしますか?ディルムッド・オディナ」

「二手に分かれるか・・・それとも・・・」

思慮にふけるディルムッドの言葉にヘリの爆音が重なった。

「あら?あれは・・・」

「攻撃ヘリと言う奴・・・!!」

爆音の方向に視線を向けたディルムッドは確かに見た。

ヘリに纏わり付く瘴気を。

そして、それに乗る人物が着込んでいる鎧を。

「シスター俺はあのヘリの方に向う。すまんが味方と合流してくれ」

そう言うやカレンの返事を聞く前にヘリに向って駆け出した。

二十四『死雷・百射』

その頃、『青髭』ジル・ド・レェと相対したイスカンダル達はジルの・・・いや、正確には彼が持つ書物から矢継ぎ早に呼び出される海魔の群れの対処に精一杯だった。

イスカンダル・ヘラクレス・メドゥーサ、メディアと四体の英霊に加え、カレイドステッキの力で魔法少女となったルヴィア、桜・イリヤ、ホムンクルスであるセラ、リーゼリット、そして普通の人間であるがその戦闘力はこの面子と遜色ない宗一郎。

この十人を相手にして一歩も退かないあたりジルと言うよりは彼の宝具『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』の驚異的能力と言うべきか。

ヘラクレスの大剣で吹き飛ばされても、メドゥーサのダガーで貫かれても、宗一郎の『八点大蛇』、リーゼリットのハルバートで切り裂かれたり押し潰されたりした先から次から次へと新手が湧き出る。

それはルヴィアのカレイドグラップも同じだった。

魔力を放出させての一撃ならばまだしも迎撃で放たれる一撃では海魔は引き千切れるだけで終わり、引き千切られた箇所から新手が溢れ出す。

その中で有効だったのがメディア、イリヤ、そして桜だった。

メディアの魔力砲が海魔をまとめて蒸発させ、イリヤのレインボーバードでまとめて宝石に変えて、桜の放つシャドーホームが現と虚の狭間に落とす。

また上空からイスカンダルの『神威の車輪(ゴルティアス・ホイール)』を牽く神牛の雷撃が分離した海魔やジルの周囲の海魔を焼き払い、時には降下して神牛の蹄や戦車の車輪で踏む潰し、ひき潰す。

しかし、それをもってしても『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』の召還に限りは見えない。

何しろ本そのものが宝具であると同時に、巨大な魔力炉の性能を併せ持っている。

魔力切れなどまずありえない。

そうこうしている内に、海魔はどんどん召還されていき、密集しジルを覆い隠し、それ自体が一つの大きな生命体と化した。

「!!やつめ、またあれをやる気か」

そう毒づくイスカンダルの脳裏によぎるのは十一年前の第四次聖杯戦争最大の激戦でジルが行った巨大海魔の強制召還。

イスカンダルのもつ『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』をもってしても時間稼ぎ程度の事しか出来ず、アルトリアの『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』でようやく勝利を収められた。

あれが倫敦に目掛けて侵攻していけば倫敦は間違いなく壊滅する。

それに加えて拙い事も起こっていた。

「征服王よ!まただ」

「ちぃ!またか!」

ヘラクレスの呼びかけに舌打ちするや、腰の剣を抜き、のばされた触手を叩き切り、それに囚われていた魔術師を助け出す。

そう、ジルの呼び出した海魔達は餌を求め、最初はヘラクレス達にその魔手を伸ばそうとしたのだが、捕食が困難とわかるや遠距離にいる魔術師達を捕えそれを己の栄養としていた。

現に既に二十名近くの魔術師、イギリス軍兵士が海魔の餌と化していた。

「ええい!このままでは埒が明かん!!小娘はどうした!!」

これのしぶとさを経験則で知り尽くしていたイスカンダルが吼えるが、当のアルトリアは現状自分の事に精一杯でとてもジルの方にまで気を回せない状態であり、仮に把握していたとしても行くに行けない状態だった。

 

「アーサー!!」

ただひたすらにアルトリアへの怨嗟を吼えるランスロットの駆る攻撃ヘリから呪いに満ちた銃弾が吐き出される。

咄嗟に身を翻らせて銃弾のスコールから避けるアルトリア。

だが、その銃弾を浴びせられた地面は銃撃と言うより爆撃を受けたかのように大きく抉れていた。

異常と思うがランスロットと戦った者ならその秘密は判っている。

ランスロットが手にした以上、いかなる武器も兵器でもそれはランスロットの宝具。

そう、それがただの鉄屑も、いや、小枝ですら並みの魔術師では歯のたたない宝具と化す。

ゆえにその名を『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』、まさに恐るべき能力の宝具と呼ぶべきか。

しかも、アルトリアへの憎悪に狂っていても尚、『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』の能力を最大限利用する事が出来るスキルがランスロットにはあった。

かつてキャメロット最強の騎士として鍛え上げられた戦闘能力、その時代では並ぶ物のない武芸、第四次聖杯戦争では狂気に堕ち凶戦士となっても尚錆び付く事のない手練。

無双の領域まで高めた己がスキル『無窮の武練』が、『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』の力を十二分に発揮していた。

「ランスロット・・・貴方は・・・」

「アーサー!!!」

失意の中声を出す事も出来ないアルトリアの微かな呟きをかき消すようにランスロットは再び吼える。

片や再び見せ付けられた己の罪に膝を屈しかけ、片や尽きる事の無き怒りと憎しみに突き動かされて戦闘は尚も続く。









イスカンダル達がジルに、アルトリアがランスロットにそれぞれ苦戦していたが、それでも第三の戦場に比べるとその苦難は生易しい。

何しろ巨大魔城『サタン』に相対しているのはセタンタ、バゼットの二人だけなのだから、

相手が通常の死者や死徒であればこの二人でも敵にとっては強大な障害となる。

しかし、いかんせん二人とも対人戦に特化しすぎていた。

『サタン』を撃破するにはどうしても火力が不足していた。

それなので二人に出来る事はアルトリアや凜が到着するまで戦線を維持する事しか出来なかった。

もしヴァン・フェムが二人を無視してロンドン目指して『サタン』を進軍させていたとしたら序盤、『ルシファー』の空爆で少なからず損害を受けたロンドンは陥落とまでは行かないにしても甚大な損害を受けた事は想像に難しくない。

しかし、ヴァン・フェムが英霊であるセタンタの力を過剰に警戒し先に憂いを除こうと積極に攻撃を仕掛けてきた為、ロンドンは破壊の手から免れた事は幸運と呼ぶべきだろう。

だが、その分、セタンタとバゼットに『サタン』を食い止めると言う重荷が加わってしまった事は必然の事だった。

「やろぉ!!」

槍を突き付けるが、微かに傷が付いた程度、

「はああ!」

バゼットの鉄拳でもややへこませた程度でしかダメージを与えられない。

いや、ダメージを与えられたならばまだ救いもあった。

突如、傷付けられた箇所が急激に盛り上がり二人目掛けて押し出される。

「うおっと!!」

「くっ!」

二人ともぎりぎりでよける。

急激に隆起した箇所は直ぐに引っ込み微かな傷もきれいさっぱり修復されている。

「ふふふ・・・無駄だ。『サタン』に生半端な攻撃が通じるか・・・」

それは嫉妬魔城『リヴァイアサン』の有していた修復機能の発展版とも言うべき代物。

自動迎撃修復機能と呼べば良いか、攻撃を受けた時点でその攻撃と同じ破壊力の一撃をもって迎撃し、その後修復される。

現に二人とも当初はそのような性能等知る由も無かった為、最初の一撃を受けてしまった。

その後は迎撃されてもどうにかかわしているが、避けてばかりでは戦いにもならない。

じわじわと嬲り殺しにされるのが眼に見えている。

「くそったれ!!こうなりゃ!!」

このままでは埒が明かないそう察知したのだろう、セタンタが一旦『サタン』と距離を置き、姿勢を低く保つ。

「おおおおお!!」

そのまま爆発的に駆け出し宙を飛ぶ。

「くらえや!!突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!」

渾身の力をこめて放たれた魔槍の一投がサタンに迫る。

「!!」

さすがにこれは余裕を持って受け止める事は出来ないと察知したのかヴァン・フェムは両腕を交差させて防御の構えを『サタン』に取らせる。

魔槍と魔城がぶつかりあうが、やはり宝具に軍配が上がる。

『サタン』の両腕を貫き、ヴァン・フェムの座乗する胴体にも突き刺さる。

しかしそこまでだった。

両腕を貫いた時点で殆どの力を使い果たし、胴体に軽く刺さった程度で力なく地面に落下していく。

「ちぃ!!」

仕留められなかった事に舌打ちするセタンタだったが、直ぐにそれ所ではない事に気付く。

いつの間にか交差していた両腕を解き貫かれた箇所にセタンタに見せ付ける。

それが徐々に盛り上がろうとしているのを見た瞬間に腕から鋭利な突起が爆発的に噴出す。

もう少し早くそれが出ていればセタンタでも避け切れなかったが、幸い落下していたセタンタの頭上の空間を貫く。

「あぶねえ・・・」

あれをまともに受ければ無事で済まなかっただろうと内心冷や汗を流しながら着地するや直ぐに槍を回収、そのまま『サタン』の股を潜り後方に回り込もうとする。

だが、この時セタンタに若干の油断があった。

今まで『サタン』の攻撃は迎撃と腕のみで、『サタン』には足があった事を失念していた。

『サタン』の足が動きセタンタ目掛けて蹴りつける。

「!!」

狙い済ましたような至近距離だった事と、セタンタ自身の僅かな油断、この二つがあいまってセタンタは『サタン』の蹴りをまともに受け吹っ飛ぶ。

「セタンタ!」

バゼットが駆け寄る。

セタンタはまだ息があるが、まともに受けた為ダメージも少なからずあった。

「くそったれ・・・俺とした事が甘かったか」

「大丈夫ですか!」

「大丈夫だと言いたいが、肋骨がいったかも知れねえな・・・」

鈍痛に顔を歪め、脇腹を押さえながら立ち上がるセタンタ。

『サタン』の蹴りをまともに受けてこの程度のダメージならば本来ならば安堵する所だが、いかんせん状況が悪い。

「まとめて押し潰せ!『サタン』」

ヴァン・フェムの命を受けて、跳躍しその足で二人まとめて押し潰そうとする『サタン』

セタンタは先程のダメージでそれほど早く動けず、バゼットもセタンタを見捨てる事は不可能。

そうこうしている内に二人に『サタン』が迫ろうとしていた。









一方、イスカンダル達とジルの戦いはと言えば、膠着状態からジルの優勢に少しずつ移りつつあった。

いくら英霊まで揃えたとは言え、体力の上で疲労は隠せない。

現に宗一郎は表情こそ変えないが、大粒の汗で全身を濡らし、肩で息をしていた。

そのため全員少しずつ後退を続け、倫敦市街地前まで巨大海魔を進められてしまった。

倫敦に仕掛けられた結界も海魔の前には容易く破壊できるだろう。

つまり、もうこれ以上は退く事は出来ない。

「まずいわ。このままだとジリ貧よ」

「ですがどうしろと言うのですか!!こちらの攻撃は大半は通用しませんわよ!!不良精霊!何か手はありませんこと!」

『そういわれましても〜グラップカレイドの能力ではあれが精一杯ですし、桜さんのシャドーホームは細かいのがやって来るのを防ぐのにいっぱいいっぱいですし・・・』

「どちらにしろ何とか中の奴をぶち殺さん事には手が無いぞ」

その時、

「英霊が四人揃って尚も苦戦していると聞いて駆けつけて見れば・・・なんとも醜い生物が現れましたね」

後ろから冷え冷えとした声が響く。

振り返ればそこにはバルトメロイがそこに立っていた。

「バルトメロイ??貴女何故・・・」

「話しは後だ、エーデルフェルト、今はあれをどうにかするのが先決だろう」

「確かにな、で小娘、貴様に何か手はあるのか」

「遠見で確認させてもらってが、予想以上の召還能力ですね。私でもあれを完全に覆滅する事は出来ないでしょう」

「あら?バルトメロイともあろう者がずいぶん弱気ね」

「私はただ事実を言っただけ。それだけ召還能力が優れていると言う事。私に出来るのは奴の動きを封じた上である程度削り落とす事しか出来ぬでしょう」

「それで十分だ」

そこにヘラクレスが口を開く。

「征服王、大女神、バルトメロイが削ぎ落とした後更に打ち崩せるか?」

「そのような事造作も無い」

「ええ可能ですが」

「最後は私が止めを刺す」

ヘラクレスの言葉に考えるまでも無くイスカンダルとメドゥーサが頷く。

「なるほど、大英雄たる貴様が言うのだ。大言壮語を言う筈もあるまい。よし、その賭けのった」

「判りました。私もヘラクレス貴方に託します」

「で、貴女は如何する気?バルトメロイ」

「・・・他に手はなさそうですね。良いでしょう」

バルトメロイも頷いた。

それを見ていたかのように海魔内部のジルの哄笑が響く。

『さあ罪に戦け、罰を受けよ!聖女に魔女の烙印を押した永劫の罪を思い知るが良い!!』

「全くうるさいですね・・・風は牢獄と化し切り刻む」

バルトメロイの詠唱と共に海魔の周囲に風が密集する。

そして、次々と風が刃となり、海魔を微塵に切り刻む。

殺戮の風が一旦収まった時、海魔はかなりのサイズを切り刻まれていた。

だが、当然だが召還による再生を試みるが、ある一定のサイズまで成長しようとすると再び風がその部分を切り裂く。

進もうとしても同様に粉砕し尽くす為、再生の速度を始めて破壊の速度が上回った。

「良しでは行くぞ!」

「ええこちらは準備は万端です」

既にイスカンダルは戦車『神威の車輪(ゴルティアス・ホイール)』に乗り込み神牛がその魔力を迸らせる。

一方メドゥーサも自身の鮮血で魔方陣を描き、天馬が現れようとしている。

「うらああああああああ!!我が前に壁など無し!!行けい!遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)!!」

今までの突撃が児戯に見えるほどの速度と破壊力に満ちた一撃が海魔の上部を踏み潰し引き潰し、止めとばかりに雷撃が焼き払う。

「行きます!騎英の手綱(ベルレフォーン)!」

それ続けとばかりに純白の彗星が海魔の中程に巨大な風穴を創り上げる。

「十分!!」

ただ一言だけ言ったヘラクレスはいつの間にか弓を番えていた。

己が魔力で編まれた矢は九本、それがイスカンダル、メドゥーサのそれと遜色ない膨大な魔力を吹き上げる。

もし、第五次聖杯戦争においてアインツベルンがヘラクレスをバーサーカー以外にしていれば『十二の試練(ゴッドハンド)』と双璧を成す他のサーヴァントへの脅威となった宝具。

かつて九つ首のヒュドラを倒す為撃ち放った九つの矢、故に名付けられた名こそヘラクレスがもつ最強宝具。

「射殺す百頭(ナインライブス)!!」

真名を唱えると同時に九つの矢はほぼ一本に収束され残された下部と心臓であるジル目指して突き進む。

「ひ、ひいいいい!」

ジルも『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』を持って再生を行おうとするが更に範囲を狭められた風の牢獄がそれを阻む。

「あ、ああああああああ!!ジャ、ジャンヌゥゥゥゥゥゥ!!」

その一言を最後にジル・ド・レェの身体は『射殺す百頭(ナインライブス)の一本に貫かれ、更にその傷口から崩壊していく。

ものの数秒でジルの身体は砕け散り、あとにはやはりゴーレムの残骸だけが残った。

そしてやはり貫かれた海魔も貫かれた箇所から灰となり、数分後、海魔は完全に消滅した。

「ほう、やはり大英雄の名は張子の虎ではないと言う事か。出来れば奴も我が配下にほしいものよ。エミヤと同じく忠義に篤い配下になりそうだしな」

「やれやれあれだけいてまだ欲する気ですか」

上空で感心し食指を伸ばすイスカンダルに心底から呆れた溜息を吐くメドゥーサ。

その視線の先にはヘラクレスの一撃を我が事のようにはしゃぐイリヤの姿があった。

「・・・ん??」

とその時、イスカンダルの視線がメドゥーサの丁度後方に向く。

「??如何しましたか?征服王」

「あれは・・・」

その視線の先・・・爆音を轟かせ、地上に攻撃を繰り返す攻撃ヘリを凝視する。

やがてイスカンダルもそれを見た。ヘリに纏わりつく負の瘴気を。

「少しあっちに行って来る。もしかしたらまだ厄介なのがいるやも知れぬ」

そう言うと戦車は天を蹴り一路攻撃ヘリに向った。









まさにセタンタとバゼットの二人が『サタン』に踏み潰されそうになった時、

「ホームラン!!」

突然のすっ飛んだ声と共に飛来した人の頭部程度の大きさの鉄球が『サタン』とぶつかり合う。

大きさから如何考えても『サタン』にとっては蚊に刺された態度だろうと誰もが思った。

だが、ぶつかった途端、『サタン』の方が吹っ飛ばされた。

「いい!!」

余りの非常識に助かったはずのセタンタですら痛みを忘れて絶句する。

「ショット!!」

更に追い討ちをかける様に魔力弾が叩き込まれ、地面に叩きつけられた『サタン』に追い討ちとばかりの追撃が降り注ぐ。

「おいおい・・・」

「一体どんなリンチなんですか」

余りの徹底振りに呆れるセタンタとバゼット。

「セタンタ!バゼット!大丈夫!」

「しぶとい猛犬ね。無傷と言う訳じゃなさそうだけど」

そうこうしている間にも凜とカレンが二人に近寄る。

「ええ、セタンタが少々ダメージを受けましたが」

「それよりもまだ来るぞ」

「へ?」

「あれだけの攻撃を受けたのにですか?」

その語尾に重なるように、『サタン』が立ち上がる。

当然だが自動修復で傷は何一つ存在しない。

「あれは何度でも修復する上にそのダメージ分私達にお返しするんです」

バゼットの声に心底辟易した響きが混じる。

「つまりあれ?完膚なきまでぶっ壊さないと修復するって訳?」

「全くしぶといですね。ゴキブリみたいですね」

そう言いながらカレイドアローと、ディザスターを構えなおす二人にセタンタが声をかける。

「なあ、嬢ちゃん、どっちでも良いが俺を上空高く吹っ飛ばせる事は出来るか?」

「は??」

「セタンタ??どうしたのですか?」

「後一つ試したい事がある。出来るかどうかそれだけ言ってくれ」

「あのねえセタンタそんな事」

『出来るじゃないですか凜さん、カレイドアローを使えば』

凜の言葉をマジカルルビーの声が遮る。

「・・・かなり荒っぽいけどそれでも良い??」

「ああ、問題ねえ」

そう言いながらセタンタは妙な事をはじめていた。

右足のブーツを脱ぎ捨て、素足を露わにしていた。

「??セタンタ貴方一体何を・・・!!」

全員が絶句する。

それも無理もない。

セタンタの足の甲が丁度中間あたりで折れ曲がり、それで自分の槍をしっかりと掴んでいたのだから。

「時間もねえ。さっさとやってくれ」

「・・・判ったわ。カレン、あんた済まないけどあれを牽制して」

「仕方ありませんね。わかりました」

「では私も付き合いましょう」

そんな言葉のやり取りと同時にカレンとバゼットは同時に駆け出した。

「じゃあやるわよ」

「ああ、俺が合図をしたら容赦なくやってくれ」

「判ったわよ。本当に荒っぽいけど意識しっかり持っていてよ」

そう言って凜はセタンタの足元にカレイドアローの銃口を突きつける。

一方のセタンタは静かにカレンとバゼットの迎撃を行っている『サタン』だけを見る。

「・・・」

ただ無言でタイミングを計っている様に凝視する。

「まだなの?」

「あと少し・・・」

そして『サタン』が歩を進めた瞬間、

「今だ嬢ちゃん!!撃ち出せ!!」

同時にカレイドアローが火を噴き、セタンタは上空高く撃ち出された。

「よっしゃあ!高さ!速度、角度!!条件は揃った!!」

そう叫び、空中で体勢を整える。

「!!そうか!セタンタはあれを!」

「あれ?どう言う事ですかバゼット??」

「ケルト神話でクー・フーリンはゲイボルクを投擲する時、他の人間ではとても真似出来ない特殊な投法を用いたんです」

「他の人間では真似出来ない??」

「足を使っての投法です!それでクー・フーリンはゲイボルクの威力を増幅させていたんです。つまりあの体勢こそがセタンタの」

そう言っている間にもセタンタは魔力を己が宝具に注ぎ込み、全身を弓の如く大きく反らさせる。

「我が至高の一撃、止められるならば止めて見やがれ!!貫き穿つ(ゲイ)!」

さらに身体を折れるほどまで反り返らせる。

そして、力も魔力も乗せた一撃が

「死雷の槍(ボルク)!!」

真名と共に放たれた。

撃ち放たれたゲイボルクは足で投げる時に回転し魔力をも帯びた魔槍は遠目からは真紅の落雷に見えただろう。

「!!『サタン』!!防御せよ!!」

カレンとバゼットの蝿の様に小うるさい攻撃にうんざりとしていたが、突然の頭上からの一撃に先程の一撃以上の身の危険を感じ取ったヴァン・フェムは再び魔城『サタン』に両腕を交差させ、更に脳天を密接させた上で自身の装甲を倍増しさせての防御に入る。

だが、それも徒労に終わる。

再びぶつかり合う魔城の装甲を魔雷は容易く貫き地面に小規模なクレーターを生み出したのだから。

その一撃の衝撃たるや、『サタン』の両腕は完全に崩壊し、頭上から直撃を受けたヴァン・フェムは悲鳴をあげる暇すらなく蒸発していた。

操縦者もなく『サタン』はもはやただの巨大な人形と化した。

だが、そんな事等知る由もない凜とカレンは動きが鈍くなった『サタン』を見て勝機とばかり総攻撃を仕掛ける。

「ブレイク!!」

ディザスターの鉄球は容易く『サタン』を脳天から押し潰し、

「ジェノサイド・フィーバー!!」

『アスモデウス』を葬った魔力弾の乱舞が装甲を見る見るうちに剥ぎ落としていく。

そして、カレイドアローの最後の一撃は『サタン』を完全にスクラップとした。

「ふぃ〜終わったか」

そう言うのはいつの間にかブーツを履き直し、手に槍を持ったセタンタ。

「あんたねえ・・・あんなとんでもない切り札あるんだったら最初から使いなさいよ」

「それが出来りゃ楽なんだけどなあの一撃は魔力とかの以前に、高さや角度の問題がある。俺が生きてた頃は崖から飛び降りる形でやっていたんだけどな」

「なるほど。だから凜を使って上空高くに舞い上がらせたのですか」

「そう言うこった。で後は俺達は如何する??」

「そうね。一先ず全員と合流しましょう。まだまだ何が起こるかわからないし」









『第三次倫敦攻防戦』の序盤戦はまもなく終焉に近づく。

だが、真実の絶望が狙い済ましたようにこの倫敦に迫ろうとしていた事等誰も気付かなかった。

そう、『六王権』と『六師』以外誰も・・・

丁度同時刻、『アトラス院攻防戦』は終結し『六王権』軍北アフリカ方面軍は壊滅的な打撃を被った所だった。

二十五話へ                                                               二十三話へ